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修平の視察報告

岩手県紫波町「オガールプロジェクト」を行政調査

令和元年11月21日(木)

-会派「創生保守」視察-

●紫波町の歩み

昭和30年に1町8村が合併して誕生した紫波町は人口約3,3000人で、面積は約239あり、河内長野市の約2倍ほどの広さを有しています。
平成9年に予算規模がピークを迎えましたが、その後、年々収支が悪化。平成19年には実質公債費比率が23.3%となり財政健全化に向け、改革が必要な状況となりました。
そして、同年に東洋大学大学院や民間事業者との連携協定を結び、「公民連携プロジェクト」が立ち上がり、PPP(※1)を活用したまちづくりが進められることになりました。

●紫波町の「公民連携基本計画」

平成21年、紫波町は「VFM(※2)の最大化」や「民間事業者の採算性・安定性の確保」、「町と民間事業者との適切なリスク分担」を定めた「紫波町公民連携基本計画」を策定し、紫波町が100%出資する第3セクターのオガール紫波(株)が設立しました。
そして、JR紫波中央駅前にあった10.7haの町有地を中心とした駅前都市整備事業がスタートしました。
第3セクターと言っても、従来の官主導のまちづくり会社ではなく、官と民が連携するための“エージェント”の役割を担うことが求められました。これが「オガールプロジェクト」の始まりです。

●「オガールプロジェクト」とは

「オガール」とはフランス語で「駅」を意味する「Gare(ガール)」と紫波の方言で「成長」を意味する「おがる」を掛け合わせたもので、地域の持続的な成長への願いが込められています。
プロジェクトの手順は「まちづくりとは不動産価値の向上である」という理念のもと、「逆アプローチの不動産開発」が行われました。
公共施設を建設する際、従来の方式ではテナント誘致が見込みの段階で計画が進められ、結局はテナントが入らず、オープン時からリスクが顕在化するケースが多いですが、「オガールプロジェクト」が採用した「逆算方式」では、テナント誘致と調査からスタートし、必要床面積などのボリューム設定が行われます。また、想定利回りが実現できる工事価格を設定し、着工時の入居率100%を実現することで、多額の資金調達を可能にしました。

●「オガールプロジェクト」を支える民間ブレーンと「オガール・デザイン会議」

プロジェクトの推進には多くの民間の立役者が存在します。
自治体の地域活性化事業における「補助金依存体質」に警鐘を鳴らし、全国各地で公共事業のあり方を見直し、地域の再生を手掛けてきた(一社)エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏や、オガールプロジェクト内にある各施設の運営会社の代表取締役を務める岡崎正信氏。他にも、ファイナンシャルアドバイザーで経済金融評論家の山口正洋氏や、全国で地域再生のプロデュースを行っている(株)アフタヌーンソサエティ代表取締役の清水義次氏。そして、「オガールプロジェクト」のマスタープランを担当した建築家の松永安光氏など、民間ブレーンは多方面にわたります。

また、オガールエリア内において、都市デザインに優れた魅力的なまちづくりを進めるため、グラフィックデザイナーや建築家などで構成する「オガール・デザイン会議」が設置され、施設設計やデザインの調整が図られています。

●オガールエリア内の施設と関連組織

オガールエリア内には、平成22年に「岩手県フットボールセンター(岩手県サッカー協会が管理・運営)」の誘致に成功したことを皮切りに、平成24年には図書館や子育て応援センター、産地直売所「紫波マルシェ」、歯科、眼科などが入居する官民複合施設「オガールプラザ」がオープンしました。事業費は約10億7千万円。

平成25年には「オガールタウン」を開発し、紫波町産木材を活用したエコハウス(戸建て住宅)57戸を分譲。1戸当たり1千万円代の価格帯ということもあり、完売済み。
平成26年には日本初のバレーボール専用体育館やビジネスホテル、コンビニ、薬局、飲食店などが入居する2つ目の官民複合施設「オガールベース」がオープンしました。事業費は約7億2千万円。

そして、平成27年にはPFI(※3)により紫波町役場が整備されました。建物は木造3階建て(国内最大級の木造庁舎)で、地域熱供給による冷暖房システムやトイレ洗浄水の雨水利用など環境への配慮が徹底されています。事業費は約33億8千万円で、管理・運営はSPC(資産保有会社)である関連会社に約1億2千万円(平成42年まで)で委託。
平成28年には病児保育室や小児科、クライミングウォールを設置したアウトドアショップ、トレーニングジム、英会話教室、ベーカリー、美容院などが入居する3つ目の官民複合施設「オガールセンター」がオープンしました。事業費は約3億1千万円。

平成29年には民設民営で地域産木材を活用した保育園(定員150名)が運営開始されました。
さらに、エリア内の多くの施設へ冷暖房を供給する「エネルギーステーション」が整備されています。ここでは地域産の木材チップをエネルギー利用しており、大手電力会社よりも安価で熱供給されています。
また、エリア内の中央に位置する「オガール広場」や「オガール大通公園」は紫波町が管理していますが、マルシェやイベント、BBQなどに使用され、地域の人たちの憩いの場となっています。

●補助金に頼らない「オガールプロジェクト」の事業ストラクチャー

「オガールプロジェクト」の事業構造の特徴は、SPC(資産保有会社)のオガールプラザ(株)(以後、プラザ社)をはじめ設立されたそれぞれの関連会社が各施設を独立採算性により運営しているところです。
例えば、紫波町(以後、町)と第3セクターのオガール紫波(株)から出資を受けたプラザ社は、テナントからの敷金・保証金や家賃収入に加え、金融機関や国の外郭団体から融資を受けて事業を運営しています。そして、町役場などの公共部分は町が買い取ります。

一方、土地所有者である町は各関連会社と事業用定期借地権を設定しています。また、一定の公共性などを担保するため、各関連会社は町から要求水準が求められ、それらをクリアした事業内容が展開されています。

●「オガールプロジェクト」の実績と効果

「オガールプロジェクト」にはゼネコンが設計・管理の中核を担っておらず、基本的には県内企業がプロジェクトに携わっているため、地域への経済波及効果をもたらしています。
また、オガールエリア内における地代や固定資産税、法人税収入など年間総額で約3000万円が紫波町にもたらされます。

その他にも、エリア周辺地域への民間投資を誘発し、宅地開発なども進んでいます。そうした効果により、エリア内の地価は平成30年度の37,900円から令和元年度は38,400円と少しずつ上昇しています。
また、各施設内のテナントの売り上げも好調を維持しており、利用者数も延べ100万人を超えています。

(※1)PPP

パブリック・プライベート・パートナーシップの略で、公民が連携して公共サービスの提供を行うスキームの一つ。PPPの中には指定管理者制度、市場化テスト、公設民営方式、包括的民間委託、自治体業務のアウトソーシング等も含まれる。

(※2)VFM

バリュー・フォー・マネーの略で、一定の支払に対し、最も価値の高いサービスを提供するという考え方のこと。公共サービス提供期間中にわたる国及び地方公共団体の財政支出の軽減を図ることを目的とする。

▲オガール広場にて

▲オガール東広場にて

▲オガール広場

▲オガール東広場

▲オガール広場

▲オガール西広場

▲紫波町役場

▲紫波町役場

▲オガールプラザ内の図書館

▲オガールプラザ内の図書館

▲オガールプラザ内の子育て応援センター

▲オガールプラザ内の子育て応援センター

▲オガールプラザ内の紫波マルシェ

▲オガールプラザ内の「紫波マルシェ」

▲オガールプラザ内の音楽スタジオ

▲オガールプラザ内の音楽スタジオ

▲オガールベース内のバレーボール専用体育館

▲オガールベース内のバレーボール専用体育館

▲オガールベース内のビジネスホテル

▲オガールベース内のビジネスホテル

▲オガールセンター内の小児科

▲オガールセンター内の小児科

▲オガールセンター内のベーカリー

▲オガールセンター内のベーカリー

▲オガールセンター内のクライミングウォール

▲オガールセンター内のクライミングウォール

▲賑わいを創出するアーケード

▲賑わいを創出するアーケード

▲岩手県フットボールセンター

▲岩手県フットボールセンターのグランド

▲オガールタウン

▲オガールタウン